Mini Column『潜水服は蝶の夢を見る』
前回のMini Columnでは、言語聴覚士の活躍が取り上げられている『英国王のスピーチ』という映画をご紹介しました。
今回は、同じく言語聴覚士が取り上げられており、2008年のアカデミー賞主要4部門にノミネートされた映画『潜水服は蝶の夢を見る』の原作本(タイトルは映画と同じ)をご紹介します。
著者である、ジャン=ドミニック・ボービーは世界最大手ファッション雑誌『ELLE』の編集長としての輝かしい人生を送っていたある日、脳幹出血で倒れ病院に運び込まれます。やがて意識が回復、ほんのしばらく入院すれば、元の生活に戻れるだろうと考えていたドミニックでしたが、なにやら様子がおかしいのです。医師の質問に答えているつもりなのに、自分の言葉が全く通じません。それどころか言葉を発することができません。ドミニックは左目のまぶた以外、身体全体が動かなくなっていたのです。
病名は“ロックトイン・シンドローム”(意識も知識も全く正常のまま、身体的自由が失われてしまう難病)。医師によって次第に明らかにされていく現状に、ドミニックは落ち着きを失い、呼吸が荒くなります。『誰にも何も通じない、伝えられない』まるで潜水服を着込んで海に沈められてしまったかのような圧倒的な孤独感・絶望感に包まれてしまうのでした。
そんな彼に、言語聴覚士が瞬きでコミュニケーションをとる方法を教えてくれます。
一文字一文字、人の手を借りながらではありますが、自分の心の中にある想いを表現できるようになりました。
そして瞬きコミュニケーションという手段を手に入れた彼が、約20万回もの瞬きで綴った自伝的エッセイ集が、この『潜水服は蝶の夢を見る』です。フランス人らしいウィットに富んだ表現で、退屈な病院での生活、過去の出来事、恋人との思い出、友人や家族への想いなどを面白おかしく、時にエレガントに物語ります。読み終えた後には、人を支える家族の愛、希望、生きるということを考えさせられ、深い感動と大きな勇気を与えてくれる作品です。
彼は、この本の中で言語聴覚士のことを『守護天使』と呼び、こう言っています。
「言語療法は、もっと広く知られるべきものだと思う。舌というものが、ことばの持つあらゆる音を出すために、いかにさまざまな運動を無意識のうちに行っているか、まったく驚かされるばかりだ」
言語聴覚士の試行錯誤と取り組みが、著者の心に蝶の羽を与え、それが形(作品)となって世界中に感動と勇気を与えていった。そう考えると、言語聴覚士という仕事の大いなる可能性と素晴らしさを改めて深く感じさせられますね。
このブログを読まれている方には、きっと胸に熱いものが込み上げてくる作品だと思います。
是非一度ご覧頂きたい作品です。
ドミニック執筆の様子。
(編集者が瞬きコミュニケーションから読み取った彼の言葉を書き留めている)
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